ローカルネットワーク
ローカルネットワーク
ローカル(地域)ネットワークとは、地域に自然発生的にできた人々のネットワークのことを指します。
例えば、千葉県の鴨川や埼玉県の小川町など、持続可能なライフスタイルを持つ人たちが多く集まっている場所で、なおかつ住民同士の交流がさかんな所です。エコビレッジとも少し違うので、特に決まった呼び方がありませんでしたが、人に説明する時に名称があったほうがわかりやすいので、私はそう呼んでいます。
また、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんなどが提唱しているローカリゼーションという概念がありますが、こうした新しい形の地域ネットワークの多くはローカル化を推進する動きでもあるので、ローカルネットワークという呼び方がちょうどいいのではないかと思いました。
エコビレッジとの違いは、組織化されていない独立個人のネットワークというところでしょうか。世帯は別々で、個々の生活を維持しながら、でも協力できる部分では協力する、ゆるい形のコミュニティです。
定義としては持続可能な価値観を構成員の多くが持っていることと、展開がある一定の狭い地域に限定されていることです。一市町村内だったり、同等の地理的範囲に構成員の多くが住んでいることです。
ローカルネットワークと呼べる場所
上に挙げた場所以外では京都府の綾部や、熊本県の阿蘇周辺地域、栃木県の那須地域、滋賀県の高島、山梨県の八ヶ岳周辺地域などが挙げられるでしょうか。私が知らないだけで、そうした場所は日本全国何十箇所とあると思います。
ローカルネットワークの要素
移住者が多い。
有機農や自然農などで自給的な暮らしや半農半Xな暮らしを営んでいる人が多い。
脱消費型でエコな暮らしをしている人が多い。
自然育児がさかん。
自主上映映画の上映会や講演会、ワークショップなど学びの場が多く開催されている。
人々が孤立していなく、頻繁に交流している。
ローカルネットワークひの
私の住む滋賀県蒲生郡の日野町でもローカルネットワークが展開しています。2013年に私と有志で立ち上げたものですが、他のネットワークと少し違うのが、こうしたものをつくろうと意図して始まっているところです。でも、展開の仕方が自然発生的で、組織というものはあってないようなものです。会費もなく、役職も決まっていません。唯一決まっていることがメーリングリストに入ることと、月に1度誰かの家で集まることです。それすら参加は毎回自由です。現在20人ぐらいメンバーがいます。8割が移住者ですが地元の人も数名入っています。
月1の集まり
月1の集まりでは、輪になってそれぞれの近況報告を行います。この一ヶ月間どうだったかとか、今一番興味を持っていることとか、抱えている問題とか、何でもいいので自分の状況をみなに話します。
時々テーマを決めた話し合いもします。持続可能な街づくりというのがネットワークの目的ですので、それに関連したテーマで話し合います。今まで、自然エネルギー、里山管理、持続可能な人間関係、移住者の受け入れ態勢、空き家バンク、空き家に入居する時の注意点、知事選の候補者比較、育児シェアなどについて話し合ってきました。
(2020年現在では月一の集まりは開催していません)
その他のイベント
ローカルネットワークとしてイベントを開催することは今まで一度ぐらいしかありませんでしたが、メンバーが個々にイベントを開催することがよくあります。映画の上映会、草木染めのワークショップ、くらしとせいじカフェなど。
カジュアルな集まり
イベントと言えるほどではない、お金も取らないカジュアルな集まりもよくあります。飲み会をはじめ、一緒に日野菜を漬けようとか、一緒に味噌つくろうとか、鹿一頭手に入ったからみんなで捌こうとか、子供を一緒に川で遊ばせようとか、誰かが声をかけて興味のある人が集まるというものです。
自然育児と森の遊び場
メンバーには乳幼児のいる世帯が多く、ほとんどが自然育児をしています。日野町には森の遊び場という場所が設けられていて、そこで週1ぐらいのペースで子供たちを遊ばせています。
行政とのつながり
日野町は、滋賀県では、市町村合併されていない町として残っている数少ない自治体です。そのため、行政も日野という地域に集中でき、ローカルネットワークとしてつながりを持ちやすいです。町長さんを招いての懇談会を開催し、いろいろなことを話し合いました。特に移住者の受け入れ態勢ということでは役場も力を入れているので、今後連携できる部分が多々あると思います。
ローカルネットワークの可能性
ローカルネットワークは大きな可能性を持っていると思います。
多くが里山地域で展開しているので、食やエネルギーの自給がしやすいのと、あらゆる部分で既存のシステムに頼らない独立したものが作り出せます。
自主保育、フリースクール、地元の学校を盛り上げる
例えば、教育では自主保育やフリースクールなどを始めている所もありますし、スクールという形を取らなくても、週に1回森で遊ばせるというような、森や田んぼの教室のようなことができます。あるいは地元の学校も小規模ですから、PTAとしていろいろなことを提案していくこともできるはずです。移住者の中には芸術的な才能を持った人もいるので、例えば子供たちが芸術に触れられる機会を提供したりすることもできるでしょうし、英語が得意な人は英語教育で貢献したりなど、過疎化で悩んでいる学校を盛り上げることができます。
ローカルメディア
日本はマスコミが大きな力を持っています。テレビ局や新聞社、出版社がみな東京に集中し、彼らがつくった文化を国民が消費していくのが今までのパターンでしたが、娯楽も地域で自分たちがつくってしまえば、中央のものを消費する必要もなくなります。情報発信においてはすでにネットメディアが始まっていますが、ネットメディアを使ったローカルメディアを各地域で立ち上げることができます。文化も東京発だけでなく、地方発の文化がどんどん生まれてくることが望ましく、クリエイター的な資質を持った人も多くいるローカルネットワークはその担い手になることができるはずです。
独立型医療システム
医産複合体という言葉があるように、医療産業は大きな力を持っています。でも、病院や医者に頼らなくても、病気にならない身体づくりをすればいいわけで、そうした健康管理の方法をお互いに学び合う仕組みを、ローカルネットワークとして確立していけばいいのです。
既存の政治システムから独立し、市民参加型の政治を取り戻す
三宅洋平さんが、政治を人任せにしない、市民の一人ひとりが積極的に関わっていくことを主張していましたが、滋賀県ではその流れができてきています。「くらしとせいじカフェ」というものが各地で開かれ、政治について無関心にならず、暮らしとつながったものとして勉強していこうという動きです。主に子育て中のママさんたちの間で開催されています。例えば地域の議員さんを呼んでどんなことを考えているのか訊いてみたり、自分たちの要望を伝えたりということをしています。それもかたくならず、お茶を飲みながらリラックスした雰囲気の中で学んでいくというものです。
そうした動きはローカルネットワークの活動としてもできます。
ローカルネットワークは街づくりでありながら、新しい形の国づくり
こうした独立型のネットワークが各地にできていくことで、新しいシステムができていくと思います。小説『百姓レボリューション』の中で、日本が数多くの小さな共同体に分かれ、それぞれが自治を行っていく様子を描きましたが、ローカルネットワークは独立したシステムとして、新しい国の形を形成していくことができると思っています。
里山都会構想
1964年の東京オリンピックを境に高度経済成長が進み、地方から東京に人口が流れ、中央集権型のシステムができあがっていきました。その結果、農山村では過疎化が進み、都市は人で溢れ、通勤ラッシュや渋滞で苦しんでいます。経済は成長したかもしれませんが、日本人は本当に豊かな暮らしを手に入れたのでしょうか。
2020年に再び東京オリンピックが開催されようとしている今、もう一度同じ道を歩むのかどうかしっかり考える必要があると思います。私は東京を中心とした形から、都会を地方のいろいろな場所に移すことが望ましいと思っています。それも地方都市ではなく、里山に。もちろん人口はずっと少ない小規模な都会です。過疎化が起きる前の状態に人口を戻す程度です。自然と循環しながら生きていく新しいモデルを里山に作り出し、そこが文化の発信地にもなっていく。人口の多さではなく、文化と活気を取り戻すという意味での都会です。さらに、21世紀の新しいモデルとして、文化的には20世紀の大都市よりも洗練された場所にしていく。
ローカルネットワークを通して移住者が集まってくることで、自然とそうなっていくと思います。
経済のローカル化
そうした里山都会は独自の経済を持ち、地域の中で経済が回っていく形を取り戻します。最終的にはそこでひとつの経済圏をつくっていけば、グローバルな経済システムからも独立できます。完全に独立するとなると、1市町村レベルでは足りず、県単位ぐらいになっていくと思いますが、ローカルネットワーク同士でつながり、より広大な地域のネットワークに発展させていくことも可能だと思います。
ローカルネットワークや里山都会については『日本の里山からイギリスの里山へ―田舎暮らし親子の夏休み』にも書いてあります。
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